2016年04月24日

やってきた開店時刻

閉まったシャッターの下から光が溢れてくる、やっとそんな時刻になった。
くたびれた身体を横たえれば、眠りの方から迎えに来るのが長年の彼の生活であったが、昨晩は違っていた。
オープニングのチラシまで盛大に用意しているのに寝坊でもして店が開けられなかったら、なんて夜闇に眠れぬ目を開けて、ついに焦り始めた時はずっと小さな頃に戻ったような気持ちがして、ふと笑いがこぼれた。確かに笑ったが、それはこの歳になっても幼い日の遠足の前のそれと同じだと知った。
ちょっと浅い眠りに就けたのだ、時計を見ると朝5時だった。まだ低い朝日が部屋の中を薄明るくしていた。
少し肩の凝りが残っているようだった。ただ、もう一度枕に頭を擡げたいとは思わなかった。年齢のせいではなかった。
真新しいコーヒードリッパーに、厳選したブルーマウンテンを入れ、今日まで長年磨き続けてきた白磁のコーヒーカップを棚から出した。
コーヒーの淹れられる音が視覚を、焙煎豆の匂いが味覚を刺激する。
開店を待ちきれない光の粒、コーヒーを淹れる彼の手にも力が入る。
朝6時、シャッターを開けて朝一番のお客さんを迎える。
「おはよう」、修善寺の山道の小さな店で彼の二回目の人生が始まろうとしている。


posted by Y.Toriyama at 12:07| Comment(0) | TrackBack(0) | フィクション