2016年05月22日

François Vièteの無限積

16世紀フランスの、François Vièteは高次方程式の一般的解法を探求するなど、16世紀数学の潮流であった代数学への貢献が注目される数学者です。しかし、代数学だけでなく、彼は三角函数についての幾つもの論文を後世に残しています。
それらの著作の中でも特に私の印象に残っているのが、通例"ヴィエトの無限積"と呼ばれる、余弦の無限積に関する定理です。

下記講義ノートでは角変数が一般的な場合の証明を載せていますが、François Vièteの原典では、θ=πの場合が取り上げられています。
このことから、講義ノートで私が書いたような形式的な式変形によってではなく、Vièteは単位円の多角形近似から着想を得たものだと推測されます。

そして、Vièteはこの定理の結果から、初めて円周率πを多重根号の形で表現することに成功し、詳しい円周率の値を計算したと言われています。∎

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posted by Y.Toriyama at 18:09| Comment(0) | 数学

2016年05月15日

広い海、一粒の真珠〜sin(π/12)の数値評価〜

数学史を紐解いてみると、無理数の発見は哲学者たちに強い衝撃を与えただけでなく、数学者たちに実用を離れた純粋な数学的興味を湧き起こさせた史上最大の大事件の一つであったとも考えられます。

遠い昔の話です。
平方根√が初めて私の前に現れたのは中学校の頃だったようです。
今思えば、平方根√の登場は、私の数学観、世界観を変える大事件だったのです。
平方根を乗り越えて、無理数を受け入れて、更にはそれを指数定理の特別な場合だと認識し、そして負数底の指数函数の後ろ髪を捕まえてより一般的な数である複素数までを数として認めるようになった今から見れば、単なる演算の一つですが、数といえば正整数、それを元にした分数、ややあって負数の概念しか手にしていない普通の中学生の私には、
√2=1.4142…
√3=1.7320…
といった、これまでの四則演算では表現し得ない数が存在する、という事実は受け入れがたいものであったはずです。
私が要領がよく、計算法則や開平法のやり方をただ単に覚えて問題集に楽しく取り組めるような普通な生徒であれば、その後の数学の道を諦めることはなかったのでしょうが、私は落ちこぼれでした。
私は私で、二乗したら2になる数を必死で探し、そのうちに黒板は何度も消され、窓から見える桜は散って、葉桜が綺麗な季節になってゆきました。

ところで、今少し述べたように、中学校時代には平方根を次のように習っただろうと思います。
√a=b ⇔ a=b^2, b>0
正の数bを二乗した数がaであり、aは正の数bを二乗した数である
実はこの単純な仕組みを用いると、いかなる数の平方根でも近い有理数で近似(数値評価)出来ることが分かります。
詳しくは講義ノートを御覧ください。有理数では表せないsin(π/12)の値を題材に、平方根の数値評価の一例を挙げています。


平方根をじっと見つめて、その新しい数の存在を疑って先に進めなかった私の努力は虚しく散りました。
無理数を限りなく正しく表現する有理数を見つけるのは、太平洋に投げた一粒の涙を海の底から掬い上げるようなことだからです。
しかし、そんな私の姿勢が大切なのだと気づかせてくれたのは、もう少し後になってからのある出会いでした。その話は又の日に。∎


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posted by Y.Toriyama at 14:01| Comment(0) | 数学

2016年05月01日

野分のまたの日〜雨あとのぬかるみも趣ある道〜

sine,cosine,tangentの三角比を三角函数に拡張してゆく過程において、加法定理が重要な役割を果たすことは周知のとおりであります。
sin(x+y)=sin(x)cos(y)+cos(x)sin(y)
cos(x+y)=cos(x)cos(y)-sin(x)sin(y)
この式はおそらく高校数学で紹介される定理であるので、読者諸兄の多くには馴染み深い式ではないでしょうか。
ただ、しかしなぜ、角変数がxとyの二つだけなのでしょう。数学は自由です。変数は三つでも好いんじゃないでしょうか。

例えば、問題集には次のような計算問題が載っています。
sin(x+π/3+π/4)=?
これを見たとき、多くの人は"π/3+π/4"の部分を"ひとかたまり"=yとみて、先の加法定理を使い、さらにもう一度"π/3+π/4"の三角函数に対して加法定理を、というように加法定理の二回使いを考えます。
sin(x+π/3+π/4)
=sin(x)cos(π/3+π/4)+cos(x)sin(π/3+π/4)
=sin(x){cos(π/3)cos(π/4)-sin(π/3)sin(π/4)}
+cos(x){sin(π/3)cos(π/4)+cos(π/3)sin(π/4)}
=(√2-√6)/2×sin(x)+(√2+√6)/2×cos(x) ∎

具体的な問題を解決するためには加法定理の二度使いといった"煩雑"な作業をするのに、どうして変数が三つの場合の加法定理を考えてみることはしないのでしょうか?
今の計算のように、一般の場合もその計算過程あるいは結果は"まとまりの無い"ものになると、予想してしまうからなのでしょうか。
ところが、数学のいくら"綺麗な"定理であっても、その証明には何段階もの枝葉の必要な"煩雑"な操作が必要なことは往々にしてあることです(例えば、代数学や微積分学の基本定理など。)。

だから、式変形の道のりは"野分のまたの日"の泥濘に見えても、その道の先は昼過ぎには明るく晴れ上がることもあるのです。
実用性は?と問われてもそれはお門違いです。加法定理の変りダネ、これは雨あとの午後の小さな山歩きなのですから。∎

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タグ:三角函数
posted by Y.Toriyama at 15:03| Comment(1) | TrackBack(0) | 数学