2017年12月12日

旧い地名

 辞書を傍らに置いて古い言葉を一つひとつ読み解いてゆくときと同じように、旅をしていて簡単には読み下せないむつかしい地名に出会ったとき、旅の足取りがぐっと深まることがある。

 漢字には音読みと訓読みのふたつがあるが、とかく私たちの周りにありがちなのは前者の中華風の音で素直に読み下してよい地名である。それゆえか、私たちは初めて訪れた土地の名も、とかく物知り顔で勝手に読んでしまいがちであるが、やや町に分け入って、商店街のアーケードかなにかに丁寧なふりがななどを見つけて、恥ずかしい思いをすることも度々ある。

 人口に膾炙した土地の呼び名と、古い伝えの漢字名とが、当て字の関係で組になっているようなとき、よそ者の私には驚きであり、その街への関心の糸口になる。

 こうして知ったかぶりのこっ恥ずかしさを越えて見知らぬ街に興味をそそられるのは、その呼び名にわずか残っているような、古い時代の混じりけない日本語に思いをはせるためである。きっとこの辺りは「やまとことば」の昔からつづく歴史ある街なのではないか、と思うのである。

 こうして各地をさまよっているにつけ、地名のおこりを調べようとする研究の難しさが分かるような気がしてくる。地名というのは、皆が呼ぶからそうと定まったものであり、そもそも誰が決めたものでもないからである。地名は半ば自然のようなものであり、何かのきっかけで突然芽吹き出で、その若木のいくつかだけが人びとの口から口へ伝えられるうちに大きな森の一部と成長し、そしていずれは静かに新しい地層にうずもれ、果ては跡かたなく消え去ってゆくものであるからだ。

2017・8・26

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