2018年04月10日

遠くで汽笛を聴きながら〜尻手短絡線〜

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望遠レンズゆえの圧縮効果で、ものすごく深い谷をのぼってくるような写真に見えているが、実際は多摩川の水が均した平らな町・川崎を走る南武線の一枚である。

東京近郊の路線図を見て、この辺りへ初めて来た人には川崎・尻手・八丁畷あたりのトライアングルはだいぶ込み入った路線に見えるらしい。確かに川崎駅から下り立川ゆきに乗って尻手へ向かうと、駅の手前で左手から何やら線路が合流して、しばらく複々線のようになるから意外である。ただ、列車が発ってしばらくすると、次の矢向に着くすぐ前に線路は再び離れていって、もとのとおりの複線に戻るのだから、あれは何だったのかと不思議である。

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尻手のあたりは国道一号線を渡る都合もあってか、うずたかい盛土のうえにつくられている。だから隣の川崎駅や矢向からは、坂をのぼってくるようなのである。

踏切にせずにわざわざ高いところに駅をつくったのは、おそらくであるが、ここ川崎が産業の町であったからである。いまでは南武線を立川から直通する貨物列車も無くなってしまったが、ここはかつて電気機関車と貨物の行き交う貨物の街道であった。橋上の線路では石炭・石灰石など原材料を運び、下の道には工場で作った工業製品をトラックでとめどなく走らせる。そんな思想がこの尻手の複々線をつくったのではなかろうか。

今ではもうもてあましたように暇な線路に、時折貨物列車が通るとき、高度経済成長期の残響をレールの音に聴くのである。

2018年2月27日 鳥山 柚樹

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2018年04月02日

くもりのち、あめ

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 地下街を出ると、思いのほか雨はきびしく降りだして、せっかくの傘を濡らさなければならなかった。横風が時折、唐突に吹けば、ひざ下が濡れて冷たかった。ただそれよりも、眼鏡についた水滴は指で何度ぬぐっても、細かいしずくにちぎれるばかり、私の視界を思いやりなく邪魔するのが口惜しかった。

 しかたなしにバスに乗れば、暖められた雨の空気が頬をつかんで髪にまとわりつくのを感じた。バスはたてよこに整然と伸びる二車線を一辻ずつ折れては、北に向かっている。意外とほそい道だから、時々片側が立ち往生しているときなどには、車は限りなく左に寄って、川と流れる側溝を歩道にかき散らしてゆく勢いである。

 季節がらか、朝の予報はあてにならない。曇った窓ガラスを手でこすり、窓の外を見てみるが、“通り雨”はむしろ強くなるばかりである。こんな天気だから車がいつもより多いのか、大通りから細い小道に曲がったならば、前後をすぐに固められてしまった。

 前の車にぐっと詰めて止まっているから、遠くの信号より発車の合図は目の前のテールランプで、降りやまない午後の雨と近づく夕暮れ、動かない車の列。そこにあるのは、ぼんやりとした手もちぶさたのようなもので、結局バスが動きだしたのは、後ろからのクラクションに信号の青を教えられたからであった。ただ信号が変わるのも早いらしく、じりじりと進んでスピードを落とした。先の交差点でしぶきかけた見覚えある赤の傘が、バスの横を通り過ぎていった。足どりはただ淡々として、無口なかんじだった。

 翻ってみると、この車のなかもいつもに増して静まりかえっていて、エンジンを切ると何気ない咳払いなんかもやけに鋭く聞こえるようである。

 こればかりは私の気分に過ぎないのかもしれないが、季節のかわりめの気まぐれで筆先まで冷え切ってしまうのは少し悲しいものである。こよみの上ではもう春なのだから、明日は晴れればいいのだけれども。

2017・9・2

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posted by Y.Toriyama at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | フィクション