2017年01月04日

人生の0キロ標

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 首を上げた竜のようにレールを褶曲させた車輌止がホームのはずれに待ち構えている。ここは都会からの列車の終着駅、鄙びた田舎の無人駅と誰もがいう。辺りには雨降りの翌日らしく朝靄が立ち込めている、ただ、それを気付かせるよりさきに夜明け前の薄暗さが遠く伸びてゆく線路を深く覆っている。

 遠くで踏切が鳴り出した。ヘッドライトが靄をかきわけるようにして、回送列車が踏切を渡るのを見た。私はこれから始発列車、都会を目指して最後の旅をする。

 ひとはここを終着駅という。ただ、私にとっては始発駅、そして二度と戻ることのない始発駅。

 発車の時刻が近づいた。朝の張りつめた空気をつらぬく気動車のスチーム、車掌の声。旅立ちはずっと一人だと思っていた。ただ、出発の笛の音に急かされて駆け込んできたのはよく見知った懐かしい友輩ではなかったか。

 まだ、夜は明けきらぬうち、列車は線路わきの0キロ標を大きく蹴りだした。一度は夢破れ、いつしか乗り過ごしてしまった私、そして私たち。だけど、もう一度、行こうじゃないか、共に。
 あともう少しだけ薄暗いほうがいい、夜明けとともに登場するほうがドラマとしては美しい。


2017年1月4日 YUUKI Toriyama

タグ:頑張れ!!
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2016年04月24日

やってきた開店時刻

閉まったシャッターの下から光が溢れてくる、やっとそんな時刻になった。
くたびれた身体を横たえれば、眠りの方から迎えに来るのが長年の彼の生活であったが、昨晩は違っていた。
オープニングのチラシまで盛大に用意しているのに寝坊でもして店が開けられなかったら、なんて夜闇に眠れぬ目を開けて、ついに焦り始めた時はずっと小さな頃に戻ったような気持ちがして、ふと笑いがこぼれた。確かに笑ったが、それはこの歳になっても幼い日の遠足の前のそれと同じだと知った。
ちょっと浅い眠りに就けたのだ、時計を見ると朝5時だった。まだ低い朝日が部屋の中を薄明るくしていた。
少し肩の凝りが残っているようだった。ただ、もう一度枕に頭を擡げたいとは思わなかった。年齢のせいではなかった。
真新しいコーヒードリッパーに、厳選したブルーマウンテンを入れ、今日まで長年磨き続けてきた白磁のコーヒーカップを棚から出した。
コーヒーの淹れられる音が視覚を、焙煎豆の匂いが味覚を刺激する。
開店を待ちきれない光の粒、コーヒーを淹れる彼の手にも力が入る。
朝6時、シャッターを開けて朝一番のお客さんを迎える。
「おはよう」、修善寺の山道の小さな店で彼の二回目の人生が始まろうとしている。


posted by Y.Toriyama at 12:07| Comment(0) | TrackBack(0) | フィクション