2018年04月10日

遠くで汽笛を聴きながら〜尻手短絡線〜

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望遠レンズゆえの圧縮効果で、ものすごく深い谷をのぼってくるような写真に見えているが、実際は多摩川の水が均した平らな町・川崎を走る南武線の一枚である。

東京近郊の路線図を見て、この辺りへ初めて来た人には川崎・尻手・八丁畷あたりのトライアングルはだいぶ込み入った路線に見えるらしい。確かに川崎駅から下り立川ゆきに乗って尻手へ向かうと、駅の手前で左手から何やら線路が合流して、しばらく複々線のようになるから意外である。ただ、列車が発ってしばらくすると、次の矢向に着くすぐ前に線路は再び離れていって、もとのとおりの複線に戻るのだから、あれは何だったのかと不思議である。

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尻手のあたりは国道一号線を渡る都合もあってか、うずたかい盛土のうえにつくられている。だから隣の川崎駅や矢向からは、坂をのぼってくるようなのである。

踏切にせずにわざわざ高いところに駅をつくったのは、おそらくであるが、ここ川崎が産業の町であったからである。いまでは南武線を立川から直通する貨物列車も無くなってしまったが、ここはかつて電気機関車と貨物の行き交う貨物の街道であった。橋上の線路では石炭・石灰石など原材料を運び、下の道には工場で作った工業製品をトラックでとめどなく走らせる。そんな思想がこの尻手の複々線をつくったのではなかろうか。

今ではもうもてあましたように暇な線路に、時折貨物列車が通るとき、高度経済成長期の残響をレールの音に聴くのである。

2018年2月27日 鳥山 柚樹

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2018年02月26日

街を離れて〜JR相模線〜

 川崎から東海道線に乗り数十分。茅ケ崎の駅に降りてみた。茅ヶ崎だったか隣の辻堂だったか、ずっと前に海を見るのに湘南には来てみたことがある。

 ただ、今回の途中下車は、ここから相模線という路線に乗り換えるためである。相模線ホームは一番線であるから、ひとまず階段を昇ってうえを渡らなくてはならない。E231系を降りるなり、ホーム中程へと歩いていると、東海道線の発車メロディーはなんだか聴き慣れた音楽である。電車がホームの端に小さく消え、見えなくなって、ふとひらめけば、湘南といえばサザン、サザンオールスターズの『希望の轍』である。あいにく季節は冬だけれども、なんだか粋だね、と私は言った。

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 首都圏ではもう珍しい205系に揺られて三、四十分。降りてみたのが相武台下という駅である。通勤ラッシュとお昼のあいだの閑な時間とあって、ここまで乗ってきたのは早引きらしい学生たちがちらほらと、あとは私くらいであった。七人掛けのロングシートはがらあきで、窓に手をかけ外の景色を眺めるに、列車は住宅街のなかを抜け、次第に田畑ののどかさを沿線に加えてゆくようだった。

 相模線は上り下りが同じ線路をゆく、単線の路線である。相武台下駅はその数ある行違い駅のひとつだが、小ぶりながらも島型ホームの西側には留置線のような側線がいくつもあってややおどろいた。ただ、そのレールはどれも錆びきっていて、何ともさみしい色をしている。

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 駅のホームの西側の、側線の向こうはずっと遠くまで田んぼか何かが続いていて、そのあたりを吹きぬいてくる乾いた風が、ホームに佇む私の頬を冷たくする。次の電車はいつだか知らないが、ベンチに腰かけそちらを見やれば、一番遠くのレールは田畑に栄えた草々の枯れたのに埋もれて、そのさかいめが分からなくなってしまっている。そのためなのか、丹沢の山を臨む冬景色にはすずめの群れがたわむれて、枯れ畑に生えようとする若いみどりをついばむか、何も知らぬ鳥たちはその境界を知らずに小虫を追って春支度を続けている。

 おっと、遠くで踏切の音がする。橋本行きの下り電車が単線をゆっくりこちらへ近づいてくる。見失っていた地平線、空の広さが忘れがたく、この次の列車まで待ちたいが、手袋を忘れた手の甲がちょっぴり冷えすぎてしまった。

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2017年11月11日

古いノート・ブックより

 東西に走るながい長い列車に乗り、沼津そして東京を目指している。浜松を出たあたりからの単調な景色に輪をかけるように、富士山の見える手前で日が暮れて、てもちぶさたにうつらうつらとまどろみかけていた。夕闇がさきか、雨雲がさきか、列車は東に向かうにつれて、窓のガラスを斜めのしずくが伝うようになっていた。

 ふと目覚めたところが近くに学校のある駅らしく、ホームに電車が入るなり、にぎやかな声の様々が流れとなって電車を包みこんだ。ドアが開けば色とりどりの傘を閉じたセーラー服の学生たちで、再び列車が走り出すと、杖代わりに床についた雨傘の穂先から細い川がいくつも流れて、外の雨降りを思わせた。

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