2018年05月19日

"伊豆の踊子"

東海道線から伊豆・熱海・修善寺へとゆく特急「踊り子」は、いわずもがな文豪・川端康成の処女作「伊豆の踊子」をふまえた列車である。ながいあいだ「踊り子」の185系がつけて走ってきたヘッドマークを私はひいきにしている。

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絵のなかの、蒼い海の向こうに入道雲が立っているのだから季節は夏で、これはたしかに「伊豆の踊子」の一場面である。前髪をぱつんと切ったまだあどけない顔の少女が水平線のかなたを見つめている。彼女が川端のいう〈踊子〉で、〈私〉はこの娘をつれた旅芸者の一行とこの何日かの半島の旅を共にしてきたのである。その旅の中で一高生の〈私〉は〈踊子〉の純粋なむすめらしさにこころ惹かれる。そして最後には下田の港まで道連れてやってくるのだが、ここで〈私〉はどうしても東京に帰らなくてはならない。

海を見つめる小さな乙女の細く白い右手が、港を発って次第に遠くなってゆく汽笛にこたえて、さよならと言っている。

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折に触れてまた「踊り子」に乗る機会があって、湯河原あたりから見え始めるきらきらとした青い海に、伊豆の半島の夏蜜柑の甘酸っぱさを重ね合わせてみたのである。旅の宿で行李をひろげて、また何度目か「伊豆の踊子」を読み返すのである。

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2018年03月22日

"タイムズスクエア・たったひとつぶん"

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渋谷、原宿と山手線外回りが代々木を出ると、いつのまにやら新宿である。摩天楼じみた時計塔、ビルの谷間に都庁のタワーがちらりと見えた。小田急線が西側から合流すれば、甲州街道の下を電車はくぐる。ちかごろ、新宿駅はどんどん南へ大きくなって、この二駅のあいだは、タイムズスクエアたったのひとつぶん。東京一短い、山手線ひと駅ぶんの旅。がたんごとんと15番ホームに列車は着いた。

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2018年03月14日

"京都の花園"

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「花園」はたしか関西だった、ということだけを覚えて京都にやってくると、少しのんきな感じもする嵯峨野線の花園駅に降りてみて拍子抜けをする。少し歩いてこの辺りに大きなグラウンドでも、と探してみたくなるけれども、この洛外の駅の周りにかのラグビーの聖地はない。かわりに目につくのは二階建ての駅のホームから見える双ヶ岡で、遠き平安の時代、清原夏野という朝廷びとがこの山のふもとに屋敷を持っていた。夏野の邸宅がいろとりどりの花に飾られていたことから、この辺りは花園と呼ばれるようになったのである。

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